ETロボコン実行委員会 本部実行委員長 星 光行
■ETロボコンとは
JASAが主催するETロボコンは、幅広い視野から組込みソフトウェア技術者の人材育成の一環として行われている競技大会です。日本の産業競争力向上に欠かすことのできない、組込みソフトウェア分野における技術者教育をテーマに、決められた走行体で指定コースを自律走行する競技です。組込みソフトウェア開発分野における分析・設計モデリングと、若手および初級エンジニアにモノ作りの楽しさを経験する教育機会を提供することを目的にしています。
もともとは、2002年に業界の有志が集まってボランティアで始めた「UMLロボットコンテスト」が、2005年からJASAの主催となり、名称も「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(愛称:ETロボコン大会)」としてスタートしました。 当初は参加チーム数がわずか20チームでしたが、これが年々増加し、2008年は海外チームを含む291チームが参加するまでになりました。
2008年の全参加チーム一覧は、ETロボコンのオフィシャルホームページに掲載しています。
これだけ参加チームが増加すると、一箇所での大会開催が難しくなり、2007年から地区大会を開催することとしました。 2007年は、関東、東海、関西の3地区で大会を実施しましたが、2008年はさらに北海道・東北地区、九州地区の2地区を追加し、全国で5地区、7大会を実施しました。5地区に対して7大会とは、関東地区の参加チーム数が130チームと多く、1日では実施できないため、9月の3連休に、3日間、それぞれ1日1大会として3回実施したためです。
今年は、全国の291チームから各地区大会での上位入賞チームと、それぞれ1チームずつの推薦チームを合わせて、合計40チームがET2008併設のチャンピオンシップ大会で日本一を競いました。次の表は、2008年における5地区の区分と地域別参加者の集計です。
今年のチャンピオンシッブの様子は、Robot Watchに詳しくレポートされています。
■鉄人28号はロボットか?
昨今、様々なロボコン大会があり、それぞれ競うものが異なります。NHKで毎年やっている高専のロボコン大会は、基本的にメカニカルの創意工夫を競う大会と認識しています。これらに対して、数多くあるロボコン大会の中でETロボコンは、マインドストームというレゴブロックの走行体を同じ条件で用いて、ソフトウェアによる制御技術を競うものです。
一般的に動く機械はすべてロボットと思われています。広義な意味では正しいかも知れませんが、個人的には、ロボットに対して違う視点で見ています。これはあくまで私見になりますが、例えば、鉄腕アトムやアイボ、アイロボットなどはロボットですが、鉄人28号やガンダムはロボットでないと位置づけています。若い世代は、鉄人28号をご存知ないかも知れませんが、人間型の大型ロボットを金田正太郎少年がリモコン(ラジコン?) で操縦するものです。もし鉄人28号をロボットと言うと、建設機械のショベルカーもロボットになってしまいます。なぜなら、どちらも人間が操縦するからです。人間が操縦をするロボットは、単なる動く機械という位置づけをしています。
ロボットとは、あくまで自律、あるいは自動で動くことが条件となり、これはロボットの外見とは関係ありません。その視点で見ると、車の組み立てで利用しているアーム型の溶接機械も自律動作をしているロボットと言えます。
また、最近登場してきている、サービスロボットに分類されるパワースーツなどはは、人間の動作を読み取って自動的に動作をするため、ロボットとして位置づけることができます。
本大会で使用するマインドストームは小さいながらもりっぱな自律型ロボットです。ソフトウェアによって、走ったり、転んだり、あるいは暴れたり。それは、どんなに机上でやっても体験できないことです。ETロボコンを通じて、モノ作りの楽しさとソフトウェアの面白さの両面を知ることができます。
■ETロボコンの競技とモデル審査
競技は、546cm×364cm(畳12枚分)のコース上に書かれた黒いラインをトレースして、走行体(ロボット)が走行するものです。走行体は、すべて同一のもので行われます。競技前に、すべての走行体は「車検」を受けなければなりません。車検時に、スポンサーから提供して頂いたアルカリ乾電池が支給され、電池を入れたら封印シールを張り、以後は電池の交換ができません。今年は、パナソニック様からギネスブックにも載ったエボルタ乾電池をご提供頂きました。
コースはインコースとアウトコースがあり、それぞれのコースを2台が同時に走ります。このコースを2周走行した速さを競います。一見簡単そうですが、走行体にとっては、先端についた赤外線センサが唯一の「目」となります。人間はコース全体を見ることができますが、走行体は先端についた赤外線センサで、コース上の「ある一点」しか見えません。そのため、走行中、コース上のどこに居るのかを判断するのは非常に難しいことになります。時々、コース上でラインを見失って迷子になり、ラインを探して逆走したり、落下したりする走行体もあります。
また、コースには、所々に難所といわれる場所があります。この難所の通過をトライするかどうかは参加チームの自由ですが、難所をみごと通過することでボーナスポイントが与えられます。難所の手前、終了地点には、灰色のマーカがあり、走行体がこのマーカの検出をうまく行わなければ、難所の通過は困難になります。例えば、今年から導入されたツインループでは、マーカの検出ができないと、ループをクルクルと回ってしまい、ループから脱出できなくなります。そのため参加チームは、この灰色のマーカ検出に様々な手法を用いてチャレンジしています。
競技の詳細は、ETロボコンのWebから競技規約をダウンロードすることができます。

■モデリング審査
ETロボコンを初めて見た方は、単にコースを速く走る競技だけだと思っているようですが、そうではありません。ETロボコンはその名のとおり、ソフトウェアデザインを競う大会です。単に走るだけではありません。競技規約にもありますが、参加資格として事前にモデル図を提出しなければなりません。提出されたモデル図は、ETロボコンのモデル審査員の皆さんによって審査され、エクセレントモデル、ゴールドモデル、シルバーモデルが決定されます。審査員は、地区単位ではありますが全員のモデルを見るわけですから、大変な労力と時間を必要とします。そのため、この審査は一泊の合宿で行われています。
昨年までは、モデリング部門の優秀チームと競技部門の優秀チームが、ET展で開催されるチャンピオンシップ大会に参加をしていました。しかし、本来のソフトウェアデザインを競うETロボコンで、モデルの良し悪しと実際の走行が一致しないという状態が続いていました。つまり、モデリング部門で優勝しても、走行では良い結果がでなかったり、逆にモデルは良くないのに走行で好成績を出すチームが現れるなど、これは、モデリング教育をテーマにしたETロボコンとしては、由々しきことでした。
そこで、今年からモデリング部門と競技部門の「調和平均」で算出する総合優勝部門を新設し、チャンピオンシップ大会には、この総合部門での優秀チームが参加をするようにしました。
平均を算出する方法はいくつかありますが、最も一般的な求め方として、いわゆる足して2で割るという「相加平均(算術平均)」が用いられています。この方法だと、片方が100点で片方が0点でも、平均点は50点になってしまいます。それに対して、「調和平均」は、どちらも良くないと平均点が高くなりません。この手法を用いた結果、今年はモデルと走行とに非常に良い相関関係がでるようになりました。
もし、「調和平均」に興味があれば、ネットでお調べください。ETロボコンの審査で用いた、「調和平均」の計算方法は、ETロボコンのWebに掲載されています。
■モデリングワークショップ
ETロボコンには、企業チーム、高校・高専チームから大学生チームまで幅広いチームが参加をしています。特に今年は、高校、高専、専門高校などの高校生チームの増加が目立ちました。高専の中には、来年に向けて学内にロボコン部を発足した学校もあります。

企業チームも多くの企業が新人教育にこのETロボコンを利用しています。企業チームの場合、会社としては過去に何度か参加をしているものの、参加メンバは前年と違うメンバで構成されています。この傾向は、本来のETロボコンの技術者教育の目的と合致しています。毎年、新人エンジニアがETロボコンでモデリング手法と組込みソフトウェアを学んで行くことになります。
そのために、ETロボコンでは、競技の後にワークショップを実施しています。ワークショップでは、モデリングで著名な専門家を審査員として、その年のモデルの傾向の解説や、実際の参加チームのモデルを取り上げ、それぞれ専門分野の立場から解説や改善点のアドバイスなどを行います。このモデリングワークショップがETロボコンの最大の特徴でないかと思っています。参加者は非常に熱心に、審査員のコメントの一言一句に耳を傾けています。
また今年からは、性能審査団という審査委員会を新設し、モデルの良し悪しとは別に、書かれたモデルの実現性や性能面を審査するようにしました。これによって、走る前から期待が持てるチーム、実現が難しい手法であるかなどの審査や解説を行います。
さらにワークシップでは、壁に貼り出された参加チームのモデル図を、審査員の先生方が参加者とグループで回りながら、個々のモデルの解説や参加者の質問に答えるモデリングツアーが大好評で、今年もチャンピオンシップ大会の翌日に、パシフィコ横浜で実施しました。今年は、ロボコン参加者以外のET2008の来場者も参加できるようにしたため、200名を超える方々が参加しました。
一昨年までは、モデリングが提出できず、競技に参加できなかったチームもありました。学生チーム、特に高校生チームなどは、フローチャート程度しかかけない状態でした。しかし、こうしたワークショップで勉強したり、優秀チームのモデルを見て学んだりして、今年は、地区大会で大学生チームがモデル部門で上位入賞を果たしました。このようにワークシップの実施で、参加者のレベルは確実に上がってきています。

2008年のワークショップの内容は、@IT MONOistに詳しく紹介されています。
専門家が思わずうなる、モデルの作り方
モデルの情報量と伝わりやすさの関係を問う
また、@IT MONOistでは、連載記事「ETロボコン2008〜チャンピオンシップへの道〜」と題して、ETロボコンを取り上げて頂いています。
■参加チームの走りと競技ルールとの攻防
ETロボコン運営してきて、ルール規約の想定を超えた走りをする参加チームの登場に驚かされますが、これは、ある意味、非常に良いことだと思っています。そうした新しい発想や創意工夫も大事なことです。
現在の競技は、インコース、アウトコースの両方を走って、その合計ポイントで順位を決めています。当初は、インコース、アウトコースを走って、どちらか良いタイムで順位を決めるようにしていました。ところが、得意のコースの方に注力を注ぎ、もう一方のコースを捨ててくるチームが現れたため、教育的観点からルールを変更することになりました。
また、黒いラインでなく、外周にある緑色の縁を走るチームも現れました。これに対しては、ルールの変更はせずに障害物を置くことで、走行が困難になるようにしました。
さらに、ドルフィンジャンプと言われている走行方法で、スタート直後にステアリングを左に切り、一挙にショートカットをするというチームも現れました。非常に難易度の高い走行方法なのですが、これに対しては、スポンサーのネームプレートを障害物として置くことで走行を困難にしています。しかし、今年のチャンピオンシップの優勝チームは、そのわずかな隙間を走破して、見事にドルフィンジャンプを成功させました。
ゴール後停止についても、ある参加チームがゴール後に停止を行ったのがきっかけで、ボーナスポイントの対象とするようにしました。こうした参加チームのアイディアによって、運営側も学ぶことが多くあり、それに伴いルール規約の変更などを行ってきました。
また、ボーナスポイントについては、ツインループと点線ショートカットの難所通過を成功させた場合、1回目と2回目とで大きく変えています。2回目は1回目の2倍のボーナスポイントになります。これは、1回目は「まぐれ」ということもありますが、2回目を成功させるということは走行体が確実にソフトウェアで制御され品質が保たれているという観点からです。
■ETロボコンの今後
参加者の増加で地区大会を行うようになり、来年はさらなる増加が見込まれます。そこで、来年も地区大会をさらに増やす方向で検討しています。しかし、地区大会を増やした場合、競技の運営よりも、モデリング審査をする審査員が足りないことが問題になります。
昨年までは、本部の審査員(基本的には東京近郊在住)が、各地区に出向いていました。ところが、地区大会の数が植えることで、本部の審査員の予定が立たなくなってきました。審査員といっても、皆さんはそれぞれの会社に勤めており、ロボコンの審査員はボランティアとしてやって頂いています。
今後地区大会をやっていくには、地区ごとの審査員の育成が重要ということで、今年は、地区の審査員候補に東京に来て頂き、1泊2日で本部の審査員が教育を実施しました。
また、地区のモデル審査も、本部の審査員といっしょになって行いました。今後、地区の審査員がスキルアップしていくことにより、地区大会の開催が充実します。教育という観点からは、教えられる指導者を育成するのが、重要かつ効率的だと考えています。
■2009年からの走行体
ETロボコンで使用してきたレゴ社のマインドストームRCXは、来年で販売終了となります。そのため、来年からはNXTと呼ばれる新しい走行体を用いる予定です。今までの走行体に比べて、CPUが32ビットになり、メモリも大幅に増加されます。またモータもフィードバック付きの高精度、高性能なモータになります。そこで、NXTの「二輪倒立振子型」走行体を使用することを予定しています。
詳しくは、ETロボコンのWebサイトで逐次紹介していきますが、2009年からいきなりすべてNXTにするのは難しいため、従来の走行体と新しい走行体とをクラス分けして競技を行う予定です。
■最後に
このETロボコンの開催は、すべてボランティアによる本部・地区の実行委員の皆さんの多大な協力に支えられています。今年は、本部・地区実行委員を合わせて100人以上の方々にご協力を頂き、大会実施には、土日返上で協力をして頂きました。この場をお借りして、厚く御礼を申し上げます。
さらに、過去のETロボコンの優勝チーム(いわば卒業生)のメンバは、翌年から運営側のスタッフとして、あるいは審査員になってETロボコンで学んだノウハウで指導する側になるなどの協力をして頂き、非常に好ましい循環体制ができつつあります。
ETロボコンは、参加チームの参加費とスポンサーの協力によって運営をしています。それでも、参加者チーム数の増大に伴い、スタッフの数、資金面でも決して楽ではありません。まだ、ETロボコンに参加をしていない企業、学校には、是非とも新人教育の一環としてチャレンジをして戴きたいと思います。また企業の皆様には、今後ともスポンサーとして、あるいは技術教育のための教室(会議室)や試走会のための会場協力など、ETロボコンの運営に暖かいご支援を頂ければ幸いです。
ETロボコン公式ホームページ: http://www.etrobo.jp/
注意: 本文中のETロボコン公式ホームページへのリンクは2008年版にリンクをしています。
そのため、2009年版になったときは、リンクエラーになる場合があります。ご承知おきください。

ET実行委員会幹事 / ETロボコン実行委員長
株式会社ゼンテック・テクノロジー・ジャパン
星 光行
